新庄 耕 著「狭小邸宅」 高価な買い物こそ背中を押してほしい

「売れれば正義」の会社のなかで

大学卒業後、苦し紛れに不動産会社に入った主人公、松尾。営業に配属されるも売り上げゼロの日々。ノルマのプレッシャーや暴力もあったりと過酷な仕事だ。かといって他にやりたいこともない。そんな彼に家が売れる日はくるのか・・・。

「臨場感を演出する」ってほかにも通ずるなぁ

定例の総会で、各店舗よりあつめられた営業マンたちに、怒鳴り散らかしデスクの横腹に蹴り込みながら社長が放ったセリフ。

「いいか、不動産の営業はな、臨場感がすべてだ。一世一代の買い物が素面で買えるかっ、臨場感を演出できない奴は絶対に売れない。客の気分を盛り上げてぶっ殺せっ。いいな。臨場感だ、テンションだっ、臨場感を演出しろっ」

一見、横暴にも思えるシーンだけれど、言われてみれば確かに社長の言う通りなのである。

家なんて高い買い物、背中を押してくれなきゃ買えはしない。

その為には高揚感が必要だ。ドーパミン、出させてくれなきゃね。

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すべてはシナリオが敷かれている

家を土地を所望するお客にどうやって購入の決断まで持っていかせるか。

客を落とすまでの緻密で巧妙な「絵・画・図」が営業マンによって計算されているのです。

ここだけ聞くと「まぁ、怖い!」「騙されないようにしなくっちゃ」と思うかもしれませんが、決して悪徳不動産ではなく、むしろ逆なのではないかと。

人生で一番高いお買い物。

「失敗したくない損したくない間違えたくないお買い得であってほしい掘り出し物ならなお嬉しい」って考えは誰もが持つでしょう。

しかし、限られた日本の国土。とくに首都圏において住宅をかまえるとなると多くのお金が必要で、自分の予算では理想の物件などそうそう手に入らない。

奥さまの気持ち、ご主人の希望を汲み取り、どうにもできない項目は諦めてもらい可能な項目を際立たせ最後は契約終了まで誘導する。

営業マンの車で物件巡りをする日。「これは良い物件かもしれない」とお客が思い始めた時に「他のお客様も検討中です」なんて言われた日には、焦りと「他の人も欲しがる物件なら価値があるに違いない」というフィルターがかかり魅力倍増執着心アップですよ。もう、お買い上げまで一直線。

でもね、契約したお客もホッと胸をなでおろしてるんですよ。

やっと決まった。これで進める、と。

そして気持ちの何割かは「プロの〇〇さんがすすめてくれたのだから間違いないわ」と思っているのではないでしょうかね。そのプロは家のプロではなく臨場感を売るプロだとしても。

お客がおぼろげに描いていた透明のレールを、実体化させるため手を貸す大事な役目なのではないだろうか。まぁ、それで報酬を得ているので当たり前と言われるとそうなんですが。

営業マンもお客も互いの思惑をうっすら感じていながらも、ひとつひとつ折り合いをつけ、最後は「これしかない!」という高揚感のもと、契約成立となるのでしょう。

2時間ドラマの題材にピッタリではないだろうか

始めこそブラックともとれる不動産業界の描写に「うわぁ。やっぱりそうなのか」とこのまま読み進めて苦しくはならないだろうかと、若干かまえてしまったけれど、そこは主人公の成長と課長豊川の登場により気づけば最後まで一気に読んでしまった。

カタルシスもあり、起承転結も教科書みたいにしっかりしている。

魅力的や個性的な人物もいるし、2時間ドラマにうってつけだと思うので映像化しないかなぁ。

そうなればキーとなるのは豊川課長。どの役者だとしっくりくるのか。

主人公役は「憂鬱のなかの快活さ、成功のなかの虚無感」を出せる人物が良い。

社長役は?彼女役は?大学の先輩役は?と不動産会社のうだつの上がらない面々も含め、勝手に脳内キャスティングしたりして、それが思いのほか楽しめました!

まとめ

ひとつ気になる点としては、一行で場面転換することがあるので、油断していると「んん?今どのシーンだっけ??いまどこ?」となること数回。この「狭小邸宅」がデビュー作とのことなので、ちょっと粗削りなところもあります。でも、キレイな文が面白いわけではないですからね。

家の購入を検討されている方は参考になるのでは。すべてが本にあるパターンではないでしょうし、不動産の見極めは慎重さも用心深さも大事ですので一概には言えませんけども。

定価400円+税と、500円玉ワンコインで買えちゃいます。

電車通勤の人ならば2時間通勤は片道で、1時間通勤の人は往復で。そのぐらいで読み終わるボリュームです。

軽いので通勤バッグに入れても負担にはなりませんよ。

豊川課長の配役は誰が適任か、是非想像してみてくださいね。

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